ABS樹脂は3Dプリンターのパーツやおもちゃ、フックなど、さまざまな製品に使われています。そんなABS樹脂を金属にしっかり接着したい、と思ったことはありませんか?
ABS樹脂と金属は素材の性質が大きく異なるため、接着剤の種類によってはうまく接着できない、すぐに外れてしまうといった失敗も少なくありません。
そこで本記事では、ABS樹脂とステンレス(金属)を市販の接着剤5種類で実際に接着し、同一条件で接着強度を比較検証しました。

実測データをもとに、「どの接着剤が一番強いのか」「用途別にどれを選べば失敗しないのか」を分かりやすく解説します。
筆者は、プライム市場上場企業で接着関連の業務に長年携わってきた技術者です。その経験と実験結果をもとに、DIYや日常の補修でも安心して使える接着剤の選び方を紹介します。ABS樹脂と金属(ステンレス)をできるだけ強力に、確実に接着したい方は、ぜひ最後までご覧ください。
接着強度の測定方法
結果をご紹介する前に、今回の強度測定の方法について説明します。すぐに結果を見たい方は、下記のボタンからジャンプできます。
今回は、ダイソーで販売されているABS樹脂製のフックとステンレス製の金具を使用して検証を行いました。各接着剤で接着した後に24時間以上硬化させ、フックを引っ張って剥がれた時の荷重を測定しました。




今回検証した接着剤はいずれも非常に強力なため、引張方向(垂直に引き離す方向)で試験を行うと、接着面が剥がれる前にフック自体が破損してしまう可能性がありました。
そこで本記事では、接着剤そのものの強度をより正確に比較するため、引張方向の50〜70%程度と言われるせん断方向(接着面を横にずらす方向)の強度で評価を行っています。

画像左半分:Force Channel(株式会社イマダ) より引用
今回の数値は「この荷重で必ず剥がれる」という限界値を示すものではありません。引張方向に力がかかる場合には、今回の結果よりも高い強度を発揮する可能性があります。
接着強度は接着面積に比例して増加します。理論上、接着面積が大きくなるほど耐えられる荷重も大きくなります。(例:接着面積2mm²で接着強度5kgの場合、接着面積が8mm²になれば接着強度は20kgになります。)

試験片の模式図:Force Channel(株式会社イマダ) より引用
今回の試験片の接着面積は331mm²です。そのため本記事では、単純な破壊荷重だけでなく、破壊荷重を331mm²で割った「1mm²あたりの接着強度」も算出しています。実際に使用する際の接着面積に当てはめて計算することで、自分の用途ではどの程度の荷重に耐えられるのかをおおよそ見積もることができます。接着剤選びの目安として、ぜひ参考にしてください。
接着強度測定結果
強度を測定した接着剤をランキング形式でご紹介します。
同率1位 セメダイン「EP001N」

第1位は同率でセメダイン「EP001N」です。
接着剤の色は薄いクリーム色、強度は39.21kg以上、0.118kg/mm²以上です!
フックが破損するほどの非常に高い接着強度を記録しました。


接着面が剥がれる前に試験片側が壊れてしまったことから、強度重視で接着剤を選ぶ場合の最有力候補といえます。「EP001N」は高い接着強度に加えて、優れた耐水性を備えているのも大きな特長です。水回りや湿気の多い環境でも使用できるため、幅広い用途で使用できます。
一方で、硬化後の接着剤は薄いクリーム色になるため、透明な仕上がりを求める用途では注意が必要です。また、2液を混合して使用するエポキシ系接着剤のため、瞬間接着剤などと比べると、準備や作業にやや手間がかかる点はデメリットといえるでしょう。
圧倒的な接着強度と優れた耐水性を備えた高性能なエポキシ接着剤。見た目よりも接着強度を重視したい用途には最適な1本といえるでしょう。
同率1位 コニシ「アロンアルフア EXTRA 速効多用途」

もう1つの同率1位は、コニシ「アロンアルフア EXTRA 速効多用途」です。
接着剤の色は透明、強度は33.64kg以上、0.102kg/mm²以上です!
こちらもABS樹脂製のフックが先に壊れて強度の測定ができないほど強力にくっついていました。


本製品は瞬間接着剤のため、混合不要ですぐに使える手軽さが大きな魅力です。さらに、硬化後は透明に仕上がるため接着部が目立ちにくく、外観を重視する用途にも適しています。この点は、硬化後にクリーム色になる「EP001N」との大きな違いといえるでしょう。
ただし瞬間接着剤の特性上、耐水性は高くありません。そのため、水回りや湿気の多い環境での使用にはあまり向いていません。屋内の乾燥した環境で使用する場合に適した接着剤といえるでしょう。
圧倒的な接着強度に加え、混合不要の手軽さと透明仕上げを兼ね備えた高性能な瞬間接着剤。水回りで使用しないのであれば、非常に有力な選択肢です。
第3位 セメダイン「スーパーXゴールド」

第3位はセメダイン「スーパーXゴールド」です。(1位は同率で2製品あったため、次点の製品を第3位として紹介します。)
接着剤の色は透明、強度は24.45kg、0.074kg/mm²以上です!
フックが破損するほどではなかったものの、20kg以上の高い接着強度を記録しました。


本製品は混合不要な一液の無溶剤接着剤で、開封してそのまま使用できる手軽さが大きな特長です。2液混合エポキシのような計量や混合の手間がなく、作業性に優れている点は大きなメリットといえるでしょう。
さらに耐水性にも優れているため、水回りや湿気の多い環境でも使用できます。硬化後は透明に仕上がるため接着部が目立ちにくく、外観を重視する用途にも適しています。
十分な接着強度に加え、混合不要の扱いやすさと耐水性、透明仕上げを兼ね備えたバランスの良い接着剤。性能と作業性の両方を重視したい場合におすすめの1本といえるでしょう。
第4位 セメダイン「ABS用」

第4位はセメダイン「ABS用」です。
接着剤の色は透明、強度は15.93kg、0.048kg/mm²以上です!
上位3つの接着剤と比べると接着強度はやや低い結果となりましたが、軽い物を引っ掛ける用途などであれば十分使用可能な強度です。


本製品は、ABS樹脂の表面をわずかに溶かして接着する溶着型接着剤です。そのためABS樹脂との密着性が高く、耐水性にも優れているのが特長です。さらに、30mlで200円前後と価格が非常に手頃なのも大きな魅力で、コストパフォーマンスの高さは今回検証した製品の中でもトップクラスといえるでしょう。
一方で、使用時にはいくつか注意点があります。
- 接着剤は必ずABS樹脂側に塗布する
- ABS樹脂を溶かすため、外観を重視する部分に付着すると表面が傷む可能性がある
- 溶剤を含むため、使用時は十分な換気が必要
取り扱いを誤ると素材を傷めたり、接着不良の原因になるため、使用条件を理解したうえで使用することが大切です。
高い接着強度は期待できないものの、安価でコストパフォーマンスの高い接着剤。強度よりも価格を重視する用途に適した1本といえるでしょう。
第5位 コニシ「ボンド 木工用」

第5位はコニシ「ボンド 木工用」です。
接着剤の色は薄い白色、強度は6.83kg、0.021kg/mm²以上です!
接着強度は今回検証した5製品の中で最も低い数値となりました。ABS樹脂と金属(ステンレス)の接着においては、十分な強度とはいえない結果です。


この接着剤は本来、木材同士を接着するために設計された木工用接着剤です。木材には高い接着力を発揮しますが、ABS樹脂や金属には密着しにくいため、今回のような組み合わせでは強度が出にくいと考えられます。
そのため、ABS樹脂とステンレスを強力に接着したい用途には不向きです。しっかり固定したい場合は、上位の接着剤を使用することをおすすめします。
木材には高い接着力を発揮しますが、ABS樹脂×金属(ステンレス)の接着には不向きな接着剤です。強度を重視する場合は、上位の接着剤を選びましょう。
まとめ:最強の接着剤は「EP001N」と「アロンアルフア EXTRA 速効多用途」
本記事では、市販されている接着剤5種類を使用し、ABS樹脂と金属(ステンレス)を接着した際の接着強度を比較検証しました。
その結果、最も高い接着強度を示したのは、セメダイン「EP001N」とコニシ「アロンアルフア EXTRA 速効多用途」の2製品でした。いずれも接着面が剥がれる前にABS樹脂側が破損するほどの非常に高い強度を発揮しており、強度重視で選ぶ場合の有力な選択肢といえます。
下記に、今回の検証結果を一覧表にまとめました。「どの接着剤を選べばよいか」を一目で確認したい方は、ぜひ参考にしてみてください。

ABS樹脂と金属(ステンレス)以外にも、ABS樹脂と木材やステンレス同士を接着した場合の強度も比較しています。素材の組み合わせによって最適な接着剤は大きく変わるため、他の素材を接着する予定がある方は、ぜひ以下の記事も参考にしてみてください。





